川南の魅力

「におわない堆肥」の普及に情熱を注ぐ、若手経営者の挑戦!

川南町で堆肥の製造・販売を行う『タヂカラ』を経営する下地泰信さん。
川南町に生まれ、高校卒業後は宮崎を出て専門学校で農業を学び、就農経験を積んだのち帰郷。
数年の準備期間を経て、26歳で父の会社を引き継ぎました。

「川南に戻ってすぐ親に会社を継ぐ意志を伝えたのですが、その時はすでに、父が脳梗塞を患い、事業縮小して大型の設備を手放した後でした。ですから当初は、自宅の近くにある農業法人で働かせてもらいながら地元の人との関係性を築きつつ、一から必要設備を整えることに注力しました。
すると『まだ若いのによく頑張っている』と皆さんが応援してくださって。いろんな方に援助をいただき、今があります」

ー現在利用している堆肥舎も、知り合いの紹介で見つけることができた(上写真)


堆肥とは、家畜ふんなどの有機物を発酵・分解してつくる肥料のこと。
製品によっては臭気を伴うものもあるため、「臭い」というイメージを持たれがちです。

下地さんが製造する『キレイな完熟堆肥』は、文字通り、牛ふんを十分に熟成させることで悪臭を完全に除去した肥料です。
作物に有害なアンモニアが発生しないため、ビニールハウス栽培にも導入できます。

ーさらさらとした手触りで、まったく臭気がなく、さわやかな土の香りがする(上写真)

「堆肥づくりは人工的なものじゃなく、菌の働きによるもの。
牛ふんの匂いが時間をかけて土の香りに変化して、みんなが喜ぶものに生まれ変わり、新たな価値がもたらされる。このプロセスが目に見えない“小さな世界”で繰り広げられていると思うと、すごく面白くて。
それを僕が手助けできていることにやりがいを感じています」

牛ふんを堆積させて山を作り、しばらく寝かせたあと、まんべんなく攪拌するといった作業を何度も繰り返し、微生物による有機物の分解を促すーーこの工程に半年もの時間を費やすことで、「臭くない」堆肥が出来上がるのです。

菌のチカラで、“厄介者”に愛される価値を。

畜産王国とも称される川南町では、大量に発生する家畜ふん尿の有効活用も課題の一つ。
余った排泄物は耕種農家に譲渡され、それがそのまま肥料として利用されるケースが多いのが現状です。
しかしそれでは、悪臭ばかりでなく思わぬ事態を引き起こすこともあると下地さんは言います。
「牛ふんなどの有機物に多く含まれる肥料成分は、降雨などにより成分が流出してしまうという特性があり、それが地下水汚染の原因になることがわかっています。
一方で発酵分解を経て堆肥になると、その過程で肥料成分が微生物の餌となる成分に変わるため、土の中の微生物の活動が活発になり、結果、養分が抜けにくい土になるのです。
環境汚染を防ぐという観点から見ても、農業の礎となる“土づくり”の観点から見ても、熟成した堆肥は必要不可欠なんですね。」

ー数年かけて製品化に漕ぎ着けたという『キレイな完熟堆肥』。パッケージデザインは、川南町在住のデザイナーによるもの(上写真)

堆肥生産を、川南町の新たな産業に。

現在、同社では主に下地さんが一人で堆肥の製造を行なっていますが、「堆肥化設備を所有する畜産農家さんのもとに、完熟堆肥の製造ノウハウを携えた僕がお手伝いに行くことで、製造量を増やしていけるのではないか」とさらなる普及への意欲をのぞかせます。

ー熟成させた後、乾燥、粉砕などの工程を経てやっと製品になる。これらの作業を一人でこなすのは容易ではないが、堆肥への想いが背中を押す(上写真)


「最近は化学肥料の価格が高騰していることもあり、堆肥利用への関心はどんどん高まっています。この機運に乗じて上質な堆肥を全国に供給して、ゆくゆくは川南町の新しい産業として認知されるようになれば面白いですよね」
そう言って目を輝かせる下地さんは、茶殻などの産業廃棄物を原料とした堆肥の開発・利活用についての研究も、同時に進めているのだそう。

猪突猛進、大きな夢に向かって挑戦を続ける若い堆肥生産者が、川南のこれからを担っています。