夫婦で農家民泊を経営、楽しい老後計画は着々と進行中
田舎暮らしをおすそわけ
●米山 敏夫さん(67)
知子さん(65)/写真/上
神奈川県鎌倉市出身の敏夫さんと川南町出身の知子さん。17年前、敏夫さんが宮崎県延岡市へ転勤になったのを機に、知子さんは一足先に生まれ故郷へUターン。6年前には、定年を迎えて敏夫さんも川南へとやって来た。
とにかくだだっ広い平野が広がる川南にあって、山あり、谷ありと、少し趣が異なるエリアに、ぽつんとたたずむ『農家民泊里ぐらし』。3haもの広大な敷地には、畑を中心に鶏舎、牛舎、雑木林などがあり、昔ながらの田舎暮らしを体験できる。
特に宣伝をしているわけではないのだが、東京や大阪からもお客さんがやって来るという。
2人が住んでいる『里ぐらし』は、知子さんが生まれ育った実家だ。高校を卒業後、30年の時を経て、知子さんは再びこの地で田舎暮らしをするようになった。
定年まで化学メーカーに勤めていた敏夫さんは、延岡に単身赴任中も、週末ごとに川南に通い、近所の農家さんたちの教えを受けて農業デビュー。今では、麦やオリーブ、パクチーなど、40種以上の農作物を栽培している。
〝農家民泊〞をうたってはいるものの、2人が畑仕事に費やす時間は、基本的に1日2~3時間程度。それ以外の時間は、地元でボランティア活動などを積極的に行っている。
「基本的に、自分たちが食べる分だけを作っています。だから、それぞれの量は少ないんですよ。残った野菜は人に差し上げますし、大根などは漬物にして販売もしています」と敏夫さん。
「せっかく田舎に住むのだから、田舎ならではの暮らしをしよう」とヤギや鶏を飼育したり、お風呂や暖房には、薪や太陽光を使ったりと、自給自足の生活を送る2人。決してのんびりとした毎日ではないのだが、好きなことをして暮らすその表情は実に穏やかだ。
3haもの敷地を維持管理するのは草刈りだけでも大変だというが、そうやってずっと体を動かしているのが健康の秘訣ともいう知子さんは、「70代半ばまではいけるかな」と笑う。
「老後を過ごすにはすごくいい場所ですし、田舎ぐらしを満喫しています。ただ、刺激はないんですよね(笑)。里ぐらしは、その刺激を求めてやっているようなものなんです。お客さんが、色々な風を運んできてくれる。それを楽しみにしているんですよ」。
【写真/下】敷地の一部は酪農家に貸している。「このジャージー牛のミルクは本当においしいんですよ」と知子さん。
みんなが気軽に集える場所に
米山さん夫妻には3人の子どもがいるのだが、川南へやって来た時には上の2人は進学のため家を離れ、末っ子の男の子は8歳だったという。
「下の子が小さい頃には、山に行ったり海に行ったりして、できるだけたくさん自然の中で遊ばせました。都会の生活は便利だし、刺激もたくさんありますよね。でも、小さいときには、こういう所にほったらかしにしておくのが一番いいんじゃないかな。そうすることで、自然と生きる力が養われると思うんです。そういった意味では、ここはどんなテーマパークよりも素晴らしいですよ!」と2人は声を合わせる。
【写真/下】この日はベーコン作り体験に来ていたお客さんが、ギャラリーで三線を披露。「今後は定期演奏会もありですね」と敏夫さん。
そんな2人は、この2月、里ぐらしの一角に小さなギャラリーをオープンさせた。館内には、この場所を気に入り、敷地内に移り住んだ画家とイラストレーター夫妻の作品が展示されている。
将来的には、畑で採れた野菜や卵などを使った、自給自足メニューを提供する予定だ。
【写真/下】里ぐらし一番人気の体験がベーコンづくり。米山さん夫妻は30年以上にわたって自家製ベーコンをつくっており、その味は折り紙付き!
「川南を通りかかった人が、ふと立ち寄れる場所になればいいなと思ったんです。年を取るとどうしても外出する範囲が限られてくるでしょ。だったら人に来てもらおうと。そして集まった人たちとおしゃべりをしたり、大豆の選別をしたりして時を過ごす。そんな老後を過ごせればいいなと思っています」。
【写真/下】大人数にも対応できる別館は、戦後すぐに建てられたものをそのまま利用している。